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親知らずの抜歯と移植について

親知らずを抜く必要性について

日本人の下顎は骨格的に小さいため、最後に萌出する親知らずは歯並びの列に並びきらず、斜めに倒れたまま、まっすぐ生えないことが多くあります。斜めに倒れて埋まっている親知らず(8番)が存在すると、手前の7番との間は、細菌にとってはとても都合の良いたまり場となります。また上顎に関しては下顎よりは正常な向きに顔を出すものの、歯ブラシが確実に入るスペースがない場合が多く、こちらに関しても衛生面の悪化を招きます。

 

虫歯菌が繁殖すれば歯が虫歯で溶かされますし、歯周病菌が繁殖すればその部分の歯周病が急速に悪化します。この場合に厄介なのが、しっかり反対の歯と噛み合い、食べ物を咀嚼する役目を担っている手前の7番のほうが、親知らず(8番)よりも菌の餌食になってしまうことが多いという点です。

さらには最後方の親知らずが前方の歯を押してしまうことによって、前歯部の歯並びが悪くなってしまうことがあり、こちらについても注意が必要です。

口腔内を衛生的に管理し、美しく機能的な咬合を維持する上で、親知らずは極めて邪魔な存在といえます。

しかし、すべての人が親知らずを抜かなければならないわけではありません。

歯が並ぶスペースに余裕がある方は、親知らずまですべての歯が真っ直ぐに生えそろいます。

通常であれば、こういった場合は抜歯をせず様子をみます。ただし、よほど口が大きい人でない限り最後方の親知らず部分は歯ブラシだけでは磨きにくいことが多く、フロスやタフトブラシといった補助清掃器具が必須になります。

あるいは、抜かなければいけないことはわかっているのだけど、全身疾患的な問題や抜歯することへの精神的な問題などが障壁となり、どうしても抜歯ができない方もいらっしゃいます。

とにかく、親知らずによる弊害を理解していただいた上で、その被害を最小限にとどめることが重要です。

当院としては、患者さんとコミニュケーションをとるなかで、最善の管理法を見出せればと思いますので、わからないことがあったら、何でも聞いてください。

CTでの確認、必要に応じた専門医への紹介

人間の頭蓋部には無数の血管や神経、重要な器官が存在します。

下顎の親知らずの抜歯において一番問題になるのは、下歯槽管、舌神経といった神経血管系の損傷です。ごく稀に出血や麻痺という偶発症状を起こしかねません。その他にも、術中に大きく開口してもらう中で顎の関節に痛みが出てしまったり、術後に大きなコブができるほどの腫れが起こってしまうこともあります。

当院ではCTなどのレントゲンを撮影し、歯根の形態や周囲器官との位置関係をできるだけ詳しく診察してから抜歯に備えるようにしております。侵襲が大きいことが予想されるケースに関しては、当院で無理をせず、口腔外科専門医に紹介いたします。

不要になる親知らずを移植できる場合があります

虫歯などで歯が崩壊し、抜歯を余儀なくされてしまった場合には、失った場所の噛み合わせを何らかの人工物質で補う必要性が生じることが少なからずあります。隣在する歯を削るブリッジ、留め金を引っ掛ける部分入れ歯、高額な手術を伴うインプラント・・・。いずれの治療法も人工物質に頼った補い方になります。

「歯の移植」をご存知でしょうか?

たとえば、植物を植え替えることができるように天然歯も移し替えることが理論上可能です。

植物の植え替えで重要なのが「根」、とりわけ無数に生えた細かなひげ根がいかに移動した場所の土と再び結合するかが重要なポイントのようですが、歯にもこの「ひげ根」に相当するものが存在します。「歯根膜」と呼ばれるもので、歯根と顎の骨とを結合させています。

ただし、歯を失った側が重度の歯周病にかかり骨が薄くなっている場合やドナーとなる歯の歯根形態が移植歯として向かない場合は、移植はできません。あるいは抜歯してから長い月日が経過してしまうと、両隣の歯が倒れてきたり、反対側の歯が延びてきたりするため、移植は困難になります。移植に際しては慎重に診査・診断を行い、入念な準備を行う必要があります。

写真の症例は30代男性の方です。

左下7番を抜歯してしばらく経過していまたため、本来の歯を抜いてできた穴(抜歯窩・ばっしか)は骨で埋まってしまっており、一から骨を削って移植するための穴を掘らなければなりませんでしたが、機能的に不要であった左上の親知らずを移植歯として利用できたのは好都合でした。2ヶ月ほど手前の歯に接着剤で固定するのですが、その後、咬合力をコントロールしながら、移植後6ヶ月くらいには全く問題なくかめるようにまで根付いていました。

この方の場合、年齢的なことや、移植に利用した親知らずがもともと虫歯になっていたこともあり、神経を除去して冠をかぶせていますが、条件次第では歯の神経を温存できたりする場合もあります。

有意義な治療法ですが、固定期間の歯間ブラシによる清掃など、患者さんにも頑張ってもらわなければうまくいかないという側面もあります。

まずは口腔内を拝見し、移植の可否について検討いたしますので、ご不明な点がございましたら、診察の中でご相談ください。

※ 治療の結果には個人差があります。治療の手法やメリット・デメリットを知っていただくために掲載した一例です。




 
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